アフリカにおいて甚大な農業被害をもたらしているストライガとは
Striga hermonthica
Striga gesnorioides
驚異の秘密は種にあった
なぜストライガはこれほどまでに猛威を振るっているのだろうか?その"秘密"は、実はその種にあった。ストライガ種子は直径0.3mmほどで非常に小さく、埃のように風に舞う。耐久性が高く、土壌中で30-40年経過した種でも発芽能力を失わない。すぐ隣に植物がこなければ全く発芽せず、宿主となる植物が来るのを土の中でじっと待ち続けることができる。いったん発芽すれば、数日のうちに宿主の根に侵入を開始し、通道組織を連結し、茎の伸長を始める(下ビデオ参照)。4週間ほどで地上部に出て、10週間もすれば開花し種をつける。一個体から約10万粒の種が作られ、またばらまかれるのである。つまり一度ある地域が種で汚染されてしまうと、その完全な駆除は非常に困難であるといえる。アフリカではすでに広大な領域に汚染が広がっているため、その駆逐はほぼ不可能である。
ストライガ発芽誘導物質 “ストリゴラクトン“
ストリゴラクトンは共生カビへの招待状
植物が、わざわざ寄生植物の発芽を誘導するために土壌中にストリゴラクトンを滲出するとは考えづらく、他に生理的な役割があるのではないかと長い間考えられていたが、それが明らかになったのは実に40年後の日本における研究によるものであった。秋山らが植物の根に共生するカビ(菌根菌)を活性化する植物の因子を単離し、その構造を決定したところ、ストリゴラクトンであることがわかった(ref)。菌根菌の菌糸は、共生相手である植物の根に近づくと細かく分岐する形態変化をおこし、根の細胞の中へ入り込む。ストリゴラクトンはこの菌糸分岐を誘導するシグナルであったのである。菌根菌は、植物から糖などの有機栄養を得る代わりに、リンや窒素などの必須な無機栄養を植物側に供給する。ストリゴラクトンはリンや窒素の欠乏期に多く滲出されることから(ref)、植物は栄養欠乏に陥ると、ストリゴラクトンを使って菌根菌を呼び寄せていることがわかったのだった。
ストリゴラクトンは新規の枝分かれ抑制ホルモン
プレスリリース 2008
ストリゴラクトン変異体はストライガ抵抗性となる
つまり植物は貧栄養下ではストリゴラクトンを生成し、脇芽の数を抑制してエコモードにはいり、かつ栄養補給のために菌根菌を呼び寄せる。このシグナルをストライガがハイジャックし、寄生のための第一ステップとしていたのである。アフリカのサバンナのような貧栄養地でストライガが猛威を振るっているのもうなずける。また、ストリゴラクトン内生量がほとんどない変異体では、ストライガ種子の発芽誘導能がなく、ストライガ抵抗性となることも明らかとなり、ストライガ抵抗性植物の育種への大きく前進した。
ストライガの宿主特異性
ストライガはおなじハマウツボ科には寄生しない
さらに、S. hermonthicaが同じ種内では寄生しあうことがないことに着目し、同じハマウツボ科の寄生植物であるコシオガマ(Phtheirospermum japonicum)に対してもほとんど侵入がおこらない(下ビデオ参照)。つまり、ハマウツボ科の寄生植物は何らかの機構をもって、お互いを認識して、種内寄生を避けていると考えられる。
ストライガへの抵抗性遺伝子はNLRタンパク質をコードする
S. gesnerioidesは主にササゲを宿主とするが、ササゲの品種の中には、ある地域で生育しているS. gesnerioides対しては抵抗性を示すが、他の地域のS. gesnerioidesには寄生を許してしまうものがある。ササゲの遺伝学的に解析により、その品種による抵抗性を決定する遺伝子座の存在が示唆され、さらにS. gesnerioidesのほうにもその抵抗性を誘導する特異的な遺伝子座があることがわかってきた(ref)。つまり、植物の病原菌に対する特異的な抵抗性を説明するためによく用いられるフロー(Flor)の遺伝子対遺伝子説にあう現象が、寄生植物に対する抵抗性においてもみられる。最近になってササゲのS. gesnerioidesに対する抵抗性遺伝子はNLR(nucleotide binding leucine-rich repeat containing)タンパク質をコードしていることがわかった(ref)。NLRタンパク質は、ウイルス、細菌、カビ、線虫、昆虫などの病害抵抗性に関与していることが知られており(Shirasu Annu Rev 2009)、寄生植物も例外ではないことがわかったのである。ゲノム研究が進めばS. gesnerioides側の特異的因子も明らかになるであろう。
ストライガ機能ゲノム研究へむけて
イネ科の宿主からストライガへ、核内遺伝子が水平伝播する現象を発見
プレスリリース 2010
ストライガ研究の展望
コシオガマ
(”植物を襲う植物” 白須 賢、吉田聡子 生物の科学 遺伝 2010年9月号 より改変)
若竹崇雅、吉田聡子、白須賢 (2016) 根寄生植物の寄生メカニズム─ ゲノム解読とモデル実験系の確立で農業被害の撲滅に道 生物の科学 遺伝 70 (4) 289-293.
APPENDIX ストライガ関連リンク
学会
The International Parasitic Plant Society
新聞報道等
データベース
RIKEN Striga EST database
Parasitic Plant Genome Project (USA)
ストライガの研究者
神戸大学 杉本 幸裕
大阪大学 岡澤 敦司
International Institute of Tropical Agriculture (IITA)
村中 聡 (ナイジェリア ブログ)
Univ. Verginia Michael Timko (USA)
Univ. Shefield Julie Scholes (UK)
Kenyatta University Steve Runo (Kenya)
ストリゴラクトンの研究者
東北大学 山口信次郎
宇都宮大学 米山弘一
東北大学 経塚淳子
Wageningen Univ. Harro Bouwmeester
Sainsbury Lab, Cambridge Univ. Ottoline Leyser
Univ. of Geogia David Nelson