理研  環境資源科学研究センター 植物免疫研究グループ
 
 

ストライガゲノムプロジェクト


Striga asiatica

Striga hermonthica

Striga gesnorioides

目的

アフリカやアジアで大きな被害をもたらしているストライガ(Striga)を理解し、それに対抗する戦略を立てるためにその設計図を入手します。
 

設計図から何がわかるのでしょうか?

ストライガは植物ですが、他の植物に寄生できます。これに必要な遺伝子は何でしょうか?普通の植物が持っていないものを持っているはずです。それを探していきます。またストライガも植物としていろいろな組織を作っています。特に寄生に必要な器官は吸器といいます。それを特異的に妨害することができればストライガは生きていけないでしょう。そんなストライガの弱点を探します。寄生植物として宿主から盗んできた遺伝子もあるでしょう。それがどのくらいあるのか、どうやってそれを可能にしたのかという秘密も解き明かしたいと考えています。ストライガのゲノムはハマウツボ科に属する寄生植物のゲノムシークエンスのリファレンスゲノムとしても、大きな役割を持つことになります。
 

設計図をどう利用するのか?

まずできることは、遺伝子発現解析です。RNA-SEQというゲノムワイドの発現解析を行うことによって、寄生時に発現してくる重要な遺伝子を探ります。またタンパク質のゲノムワイドな解析(プロテオーム)にもゲノム情報は必須になります。寄生時に修飾などを受けるタンパク質の解析も可能になります。さらにこれらを代謝物質群(メタボローム)解析と組み合わせれば、ストライガどんな化合物を作り、環境に適応しているかも明らかになります。
 

どのストライガのゲノムをシークエンスするのか?

世界で最も被害の大きいストライガはStriga hermonthicaですが、これは自家不和合性植物であり、ゲノムの多様性が高く、ゲノムアセンブリーが非常に難しくなります。そこで本グループでは自家和合性のStriga asiaticaのゲノムのシークエンスを先に行い、アセンブリーをします。
 

その方法は?

次世代シークエンサーHiSeq2000(Illumina社)による100bpのペアエンド、メイトペアシークエンスを行います。ライブラリーは200bp, 500bp, 5Kbp, 10Kbp, 20Kbpをそれぞれ読みます。これにBACライブラリーの端読み(サンガー法)を加えて、アセンブリーを行います。
 

論文は?

Yoshida et al. Genome sequence of Striga asiatica provides insight into the evolution of plant parasitism. (2019) Curr. Biol.in press を参照してください。

 
ゲノムシークエンスのダウンロードは?

 
https://datadryad.org/stash/dataset/doi:10.5061/dryad.53t3574
 
https://ddbj.nig.ac.jp/DRASearch/submission?acc=DRA007962
 

他の寄生植物はシークエンスするのか?

本グループではストライガと同じハマウツボ科に属する半寄生植物コシオガマのゲノムをシークエンスし、比較します。

 
 

 


 

 
 
 

ストライガ全長cDNAライブラリーの作成とEST解析


ストライガにおける遺伝子情報解析ツールを確立させるためストライガの各発達段階における様々な器官から得られたRNAを元に、全長cDNA libraryを構築した。さらに70,000以上のEST配列を決定し、クラスタリング解析をおこなった。その結果、重複のない17,137cDNA配列が得られた。Blastサーチによる相同性タンパク質解析により、約13%にあたる2,283配列が既知の遺伝子と高い相同性を持たない新規タンパク質をコードすることが示唆された。また、これらの解析結果をデータベースとして公開した(http://striga.psc.riken.jp)。この結果はBMC Plant Biol, 10:55, 2010に発表した。
Striga hermonthica full-length cDNA clones
通常、遺伝子は、親から子へと受け継がれていくが、親子関係のない生物同士の間でも遺伝子は伝播することが知られている。これは「遺伝子の水平伝播」と呼ばれ、微生物ではよく知られた現象であるが、高等植物では、ミトコンドリア遺伝子の水平伝播や、トランスポゾンによる近縁種間での水平伝播などの例に限られていた。申請者らはストライガの発現遺伝子の大規模解析から、宿主であるモロコシに存在する遺伝子に非常に高い相同性をもつ遺伝子を発見した。この遺伝子は、ほかの双子葉植物ではまったく見つかっておらず、単子葉植物のイネ科に特異的に存在していた。すなわちストライガは、この遺伝子を祖先の双子葉植物から受け継いでいるのではなく、イネ科の宿主植物から獲得したものであり、水や栄養だけでなく、遺伝子も宿主からもらっていることが明らかになった。この結果はScience, in press, 2010に発表した。





プロジェクトのサポート



本プロジェクトは理研理事長ファンドによってサポートされています。野依理事長、ご理解有り難うございました!

ストライガ研究の展望


コシオガマ

究極の目標は、ストライガの寄生システムの分子機構およびそれに対する抵抗性機構の解明である。 S. hermonthica絶対他家受粉植物であり、変異体単離による遺伝学的なアプローチは難しい。 トランスクリプトーム解析などで、寄生時に発現する遺伝子を見つけ出し、 ジーンサイレンシングなどで 逆遺伝学的にノックダウンすることは可能だが、それには 形質転換技術の確立が不可欠である。そこで、我々のグループでは、ストライガの形質転換技術の開発に取り組んでいる。また、さらに遺伝学的な解析に取り組むためには、寄生植物のモデル植物の確立が重要になってくる。我々は、ハマウツボ科に属する日本産の寄生植物コシオガマ( Phtheirospermum japonicum)をモデルにできないかと考えている。コシオガマは条件的寄生植物であるため、宿主なしでも生育でき、寄生能を失った変異体も単離できるかもしれない。コシオガマは S. hermonthicaとは異なり、自家和合性植物であり遺伝学も比較的簡単にできよう。そのためには、コシオガマのEST情報など、分子生物学的なリソース作りも欠かせない。コシオガマの生態型コレクションも必要になる。もし、お近くでコシオガマを見かけたら、種を送っていただけると幸いです。近い将来、寄生システムの分子機構解明に重要な役割をする時がくるかもしれません!

(”植物を襲う植物”  白須 賢、吉田聡子 生物の科学 遺伝 2010年9月号 より改変)

APPENDIX  ストライガゲノム関連リンク


学会

The International Parasitic Plant Society

新聞報道等

データベース

RIKEN Striga EST database
Parasitic Plant Genome Project (USA)

ストライガゲノムの研究者

Univ. Verginia Michael Timko (USA)
Claude dePamphilis (USA)
Univ. Shefield Julie Scholes (UK)